3. 貧血との戦い(腎性貧血)
「透析を始めてから、なんだか疲れやすい」「階段を上ると、すぐに息が切れる」「顔色が悪いと言われることが増えた」こうした症状に心当たりはありませんか?
それは、「腎性貧血」が原因かもしれません。透析患者さんの多くが経験する合併症であり、QOL(生活の質)に大きく関わるため、しっかりと治療することが大切です。
なぜ貧血になるの?「腎性貧血」の仕組み
私たちの体の中では、古くなった赤血球が壊される一方で、骨の中心にある「骨髄」で新しい赤血球が常に作られています。
このとき、骨髄に「新しい赤血球を作りなさい!」と指令(ホルモン:エリスロポエチン(EPO))を出すのが腎臓です。
腎機能が低下すると、このエリスロポエチンの産生量が激減してしまいます。
すると、骨髄に指令が届かなくなり、いくら赤血球の材料(鉄など)があっても新しい赤血球が十分に作られなくなってしまいます。
これが「腎性貧血」の正体です。
貧血になると、全身に酸素を運ぶ赤血球が減るため、体は酸欠状態になります。
その結果、だるさ、めまい、息切れ、動悸といった症状が現れるのです。
また、少ない赤血球でなんとか全身に酸素を届けようと、心臓が過剰に働くため、長期的には心臓に大きな負担をかけてしまいます。
活躍するお薬
●ESA製剤:「指令ホルモンそのものを補充」
ESA(赤血球造血刺激因子)製剤は、腎臓が作れなくなったエリスロポエチン(EPO)を、直接注射で補充する治療法です。
不足している指令ホルモンそのものを補うため、非常に効果的に赤血球を増やすことができます。透析の回路から投与したり、皮下に注射したりします。
効果が長く続くタイプも開発されており、週に1回や月に1回の投与で済むものもあります。
この薬のおかげで、かつては当たり前だった透析患者さんの重い貧血が、大きく改善されるようになりました。
●HIF-PH阻害薬:「体自身の“赤血球を作る力”を引き出す」
こちらは比較的新しいタイプの飲み薬です。私たちの体には、高地などの酸素が少ない状態になると「もっと酸素を運ぶ赤血球が必要だ!」と判断し、エリスロポエチンの産生を促すスイッチのような仕組みが備わっています。このスイッチを人工的に「ON」の状態にすることで、腎臓だけでなく、肝臓などからもエリスロポエチンを産生させ、体自身の「赤血球を作る力」を引き出します。
飲み薬なので注射の痛みがなく、患者さんの負担が少ないのが大きなメリットです。
●鉄剤:「赤血球の“材料”を補給」
いくら「作れ!」という指令(ESAやHIF-PH阻害薬)があっても、赤血球の主原料である「鉄」が不足していては、質の良い赤血球を作ることはできません。
透析患者さんは、食事制限や透析回路へのわずかな血液の残存などから、鉄が不足しがちです。そのため、血液検査で鉄の不足が認められる場合には、鉄剤を使って材料を補給します。
注射で補充する場合と、飲み薬で補充する場合があります。鉄剤の注射は、副作用として痒みやアレルギー反応が出ることがあるため、慎重に投与されます。
お薬の量を細かく調整する理由
貧血の指標として最も重要なのが、血液中のヘモグロビン濃度です。基準値より低すぎると、貧血の症状が強く現れ、心臓への負担も増大します。基準値を超えて高くなりすぎると、血液がドロドロになり、シャントの閉塞や脳梗塞などの血栓症のリスクが高まることが知られています。この「ゴールデンゾーン」に数値を維持することが非常に大切です。
定期的に採血を行い、ESA製剤やHIF-PH阻害薬、鉄剤の量を細かく調整していくのは、この目標値を維持するためなのです。
貧血をしっかり治療することは、日々の生活を元気に過ごすだけでなく、心臓を守り、長生きするためにも不可欠です。
